教材名
対象 | 中学部生徒、高等部生徒 |
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障害種別 | 視覚障害教育 |
単元・活用場面 | 理科 |
ねらい | ・天気と雲量の関係について、モデル教材の触察(触覚による観察)を通して理解する。 |
障害特性に対する配慮点 |
中学校理科「気象とその変化」の単元の導入部分では、天気には様々な種類があること、また、快晴、晴れ、曇りは雲量により決まることを学習する。視覚障害のある生徒は、空が晴れているか曇っているかは、太陽からの光が自分の体にどの程度当たっているか(暖かさや明暗の程度)によって判断することができる。しかし、空を実際に観察し、視覚情報によって雲量から快晴であるか晴れであるか、または、曇りであるか、判断することは難しい。教科書には全天の雲の様子の図が掲載されているが、視覚的に空の全体像を捉えることは困難である。 これまで授業では、天気と雲量の関係について、「空全体を10としたときに、0から1が快晴、2から8を晴れ、9・10を曇りとする」と言葉で説明してきたが、空の範囲(大きさや広がり)を視覚的に認識することが困難な視覚障害がある生徒が言葉による説明を聞くだけでは、天気と雲量の関係について十分なイメージをもつことは難しいのではないかと考えた。また、空のような巨大な空間や、雲を触察により観察することは不可能である。そのため、視覚障害教育においては、天気と雲量の関係を理解する以前に、空の範囲(大きさや広がり)について具体的なイメージを形成し、その上で学習を進めることが特に必要であると考えられた。 そこで、視覚障害のある生徒に対し、空の範囲(大きさや広がり)の具体的なイメージを形成すると共に、雲量を理解するための自作の模型教材を活用した体験的な学習を通してねらいが達成できるように工夫した。 モデル教材は、生徒一人一人に1セットずつ準備した。また、モデル教材は、触察により理解できる大きさとし、両手で操作することによってその仕組みが分かるようにした。 |
期待される効果及び成果 |
視覚の活用が困難である全盲の生徒は、実際に触れられない雲についてその量をイメージすることは困難である。また、弱視の生徒も、教科書等に示されている図からだけでは、正しいイメージの形成は難しい。 本教材を活用し触察による体験的な学習を通して、天気と雲量の関係について具体的なイメージをもつことができるようになる。 |
使い方 |
【空の範囲(大きさや広がり)の具体的なイメージの形成】 空は形や大きさがなく、巨大な空間であるから、空についての視覚的なイメージがない生徒は、その空間的な大きさや広がりについて具体的なイメージをもちにくい。 そこで、「気象とその変化」の単元の導入部分において、第3学年の単元「地球と宇宙」で扱う「天球」の考え方や、触察教材として透明半球(空の範囲を示す模型)を取り入れ、空の範囲(大きさや広がり)についての具体的なイメージを形成する。 1. 空の範囲を実感するための体験 まず、空が見渡せる場所(屋上や校庭など)で、空の範囲(大きさや広がり)を実感するための体験を行う。授業者と視覚障害のある生徒は任意の方位を向いて立ち、授業者が生徒の手を取り、一緒に前方の地平線を指差す。なお、地平線が見渡せない場合は、授業者が推定し、その方向に向けるようにする。 次に、地平線を指差した手を真上(天頂)までゆっくりと上げ、さらに、後方の地平線までゆっくりと降ろすように指示する。このとき、生徒が指差した方向は、前方の地平線から真上(天頂)を通り後方の地平線へと移り変わるが、その指差した範囲全てが空であることを説明する。別の方位でも同じ手順で空の範囲を調べるよう指示する。 生徒らはこの体験を通して、空の範囲(大きさや広がり)は生徒自身を覆うような巨大な空間であることを実感することができる。 なお、前方の地平線から真下(足下)を通り後方の地平線へと手を動かしたとき、指差した範囲は地面(地球)であることも合わせて説明する。 2. 天球の概念の導入と、透明半球(空の範囲を示す模型)による空の範囲の理解 次に教室に戻り、天球の概念及び透明半球(空の範囲を示す模型)について導入する。 まず、天球について、空は直接触ることができず、形も大きさもないものであるが、プラネタリウムのドームのような球形の天井であると仮定すると、空の範囲をイメージしやすいことを説明し、このような球形の天井を天球と表現することを説明する。そして、この球形の天井を具体化した、透明半球(空の範囲を示す模型)を提示する。 最初に、大型の透明半球(直径約64 cm)を生徒にかぶせるようにして設置する。生徒は透明半球の内側で手を伸ばすと、半球の内側の壁を触ることができる。このとき、前方の内壁から真上(天頂)、後方の内壁へと順に手で触れるよう指示し、この手の動きは、空が見渡せる場所で行った指差しによる体験で行った動きと同じであることを説明する。透明半球は実際の空をぐっと小さくしたイメージの模型であり、空は、自分を覆うような半球状の空間であることを手で触れてイメージすることができる。 次に、小型の透明半球(直径約20 cm)を個々の生徒に配布し、より小さな模型で空の範囲を示すことができることを確認する。 【天気と雲量の関係の理解】 (1) 6名の生徒に、次のように教材を配布する。 生徒① 雲量1と雲量2 生徒② (①とは別の種類の)雲量1と雲量2 生徒③ (①②とは別の種類の)雲量1と雲量2 生徒④ 雲量8と雲量9 生徒⑤ (④とは別の種類の)雲量8 生徒⑥ (④⑤とは別の種類の)雲量8 (2) 教材の内側に貼った綿のようなふわふわした手触りの布は雲のモデルであること、貼られていない部分は雲がない部分であることを説明する。 (3) 生徒①~③は雲量1と雲量2を比較し、快晴と晴れの天気の違いを理解する。その後、生徒①~③の中で教材を交換し、雲のモデルを貼る場所を変えた別の種類の雲量1と雲量2についても比較する。 (4) 生徒④~⑥は、雲量9の教材を順に回覧し、雲量8と雲量9を比較し、晴れと曇りの天気の違いを理解する。 (5) 次に生徒①~③と生徒④~⑥で教材を交換し、(3)や(4)のように雲量の様子から天気の違いを理解する。 |
関連する教材や情報 |
(1) 透明半球の直径から、半球の内側の表面積を求める。また、雲量ごとの面積を求める。直径21.5cmの場合、半球の内側の表面積は約64㎠である。すると、雲量ごとの面積はそれぞれ、雲量1は約6.4㎠、雲量2は約12.8㎠、雲量8は約51.2㎠、雲量9は約57.6㎠となる。 (2) 手芸用品店で購入した綿のようなふわふわした手触りの布の裏側に、布用の両面テープを貼り付ける。これを(1)で調べた雲量ごとの面積になるように切る。 (3) (2)を透明半球の内側に貼る。このとき、貼る場所を変えて雲のモデルの位置が様々な種類をつくる。 (4) 雲量 1 (快晴)と雲量 2 (晴れ)の違い、雲量 2 (晴れ)と雲量8 (晴れ)の違い、雲量 8 (晴れ)と雲量 9 (曇り)の違いを比較できるように、それぞれ複数個製作する。 雲量1 (快晴)…3個 雲量2 (晴れ)…3個 雲量8 (晴れ)…3個 雲量9 (曇り)…1個 株式会社ナリカ 透明半球儀Bセット(10セット組) カタログNo:H45-1751 軟質透明塩化ビニル製(直径21.5cm、厚さ0.8mm) 8,500円(税抜) https://www.rika.com/product/detailed/H45-1751 綿のようなふわふわした手触りの布や布用の両面テープは、手芸用品店等で購入することができる。 日本視覚障害理科教育研究会 https://www.jaseb.net/ 柴田直人, 空の範囲のイメージの形成と天気と雲量の関係の理解を目指した授業実践について, 日本視覚障害理科教育研究会会報(JASEB NEWS LETTER), No. 40, pp. 46-52. |
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